虫厭う姫のお話 クモ編

彼女の前には「蜘蛛は縁起が良いから殺してはならぬ」という言い伝えは力を無くす。
蜘蛛の糸など地獄には垂れてこない。
とにかく、蜘蛛を見たら、コロス!
これが老人にあるまじき彼女の虫論である。

という話はよくしていたので、蜘蛛とママが犬猿の仲であることは知っていた。
ただ、その撃退方法が想像を絶していたのだ。

「今日もね、クモを一匹生け捕りにしたの。
昨日顔を合わせてね、居るなと思ってたんだけど今日ついにやったんですよ。」
 
「こういう肩に貼るアレがあって、肩やなんか痛いと貼るのよ。
割合い高いんですよ。
それでペタっと捕まえて畳んでシューっとするやつをかけて殺して捨てたの。」

どこが生け捕りだ。

というか、問題は肩に貼るアレって湿布だ。
なんて斬新なアイデアだ。

だがこんな斬新を目の当たりにしても、なんでも無いフリをするのがこのワールドのルールだ。
あまり「あり得ない」とか言ってはならない。
私はあえてその詳細を聞くことで冷静さを保った。

「その場で肩に貼ってたやつを剥がして捕まえたんですか?」
「いえいえ、違いますよ。
小川軒のレーズンウィッチの箱がアレ入れになってるんだけど、そこにアレを剥がしたのをしまっておくの。
それでね、掃除はすませちゃうんです。 
毎週日曜に掃除するんだけど、カーペットも畳もアレでペタペタやると髪の毛なんかも全部取れちゃうの。掃除は日曜に一回ね。」
「湿布で、ですか?」
「そう。」

おお、冷静を保つつもりが更に斬新な掃除方法が出てくるとは。

つまり使用済みの湿布を使用済み湿布入れとしているレーズンサンドの空き箱に保管し、それをあたかもコロコロのごとく使用しているという。
まさか湿布側も、そのような形で新たな生を受けるとは思ってもみなかっただろう。
私のことそんな目で見てたなんて!と肩を震わせたはずだ。

「割合い高い」という発言からも「一回使ったくらいで捨てちゃ勿体ないわね。」と思ったであろう思考が読めた。
読めたは読めたが・・・
私もまだまだママを理解できていないと恐れ入った。