不可解な皺のお話

ママはかわいい。
いまだそれ相応の老人にはナンパもされる。
何より肌が綺麗で83にしては皺も少ない。
目尻なんか笑い皺も無い。その秘訣を聞いてみた。

「あたしは皺は少ないのよ。
お金がある頃は外国の何万かするような化粧水も使っていましたけどね。
いまじゃ、アロエの液にグリセリンを混ぜたやつだけだけど。
あとはね、キオスクでお姉さんからもらう小ちゃいのを塗るくらいで。
キオスクに行くといつももらうの。」

キオスクなんて言葉が出て来るから一瞬にして話の流れを見失った。
キオスクで化粧品のサンプルをもらっているらしい。
マツキヨの可能性を感じる。

「でもね、ああいうの(サンプル)に書かれてる文字ってすっごく小ちゃいから何塗ってるか分からないのよ。これは何て書いてある?」
ポーチからおもむろに小さなチューブを取り出した。
エスティーローダーのロゴが入っている。
私はかすかに判読可能な表示を読んだ。

「シミとかに利く美容液みたいです。」
「あら、そう。10年前のなんだけど大丈夫かしら。」
この場合、物もちがいいのも考えものだ。

「この前は落とすやつ塗って寝ちゃった。朝気付きましたけどね。」
化粧落としを塗り込んでそのまま寝たというのにはゾっとした。
絶対に間違えたくないミスだ。

「まぁね、だから特に何もしてないわね。皺は少ないんだけどおでこにだけはあるのよ。」
 確かに、頬などは綺麗だが、おでこには何本か深い皺があった。
「この皺は15の時にできたんですよ。
あるときパーマをかけたのよ。
そうしたらおでこにパーマ液が付いてニキビができてね、歯医者さんに行ったら、そこの歯医者がまたエロ親父みたいな人だったんだけど、とにかく歯医者が治してあげるっていうもんで、黄色い液を塗られたの。それで包帯巻かれてね。何日かしてその包帯を取ったら、皺になってたんですよ。」
ホラーのような話だ。
パーマ→ニキビ→歯医者という関連性の乏しい流れが気になったが、いつものことだ。

あのとき、パーマをかけなければ、歯医者でなく皮膚科に行っていれば、と私は悔しくなった。