虫厭う姫のお話

私はサラダに入れるべくピーナッツを包丁の平で潰しながら
一昨年の悪夢を思い出していた。

以前住んでいた築30年のマンションでのことだが
ピーナッツの袋が空いたまま普段使わぬ引き出しに仕舞われており
黒いあいつ達がうまうまとそれを糧としていたのだ。
彼らの食べかけのピーナッツはそれはそれは身の毛がよだつものであった。

それからピーナッツを袋買いすることに言い知れぬ恐怖を感じるようになったのだが
何故か弊社の食品部署がピーナッツを社員に大量放出したのである。
地震を理由にしているが、ならば被災地に送ったらどうかと思う。

かくして私はピーナッツを再度所有することとなったが
今住んでいるマンションはまだ彼らの気配は無い。
勿論、全ての食品は厳重にジップロック
一切の食べかすを許さぬ態勢をとっている。

銀座のママ(83)は彼らをあぶらむしと呼ぶ。
最初はてんで何を言っているのか分からなかった。
植物に付着する小さな虫だと思ったからだ。
この歳の方は皆そうなのだろうか。

何しろ、あぶらむしが嫌いだそうで
「あぶらむしが出たら死んじゃうわね。」
と言う。
シャレにならないとはこのことだ。
いくばくかの余命を握るあぶらむしよ、
どうか今年も遠慮してあげて欲しい。