サンタクロースが捨てられないお話

捨てられないものってあるわね、という話から、この話は始まった。

以前ママ(83)が家の近くの金物屋さんに鍋を買いに行ったところ、そこの店番の女の子がとても綺麗でついホステスにスカウトしたそうだ。
ママはいつも自らスカウトする。
そのくせ、この店で売れっ子になった子はみなかわいくなかったと豪語する。

「それで、来てくれる(お店で働いてくれる)っていうもんだから、そこでこんな大きいサンタクロースを買ったの。」
空中に指でサイズ感を描いてくれるが、かなり大きい。

鍋を買いに行って、
女の子をスカウトして、
成功したからサンタクロースを買ったわけか。
そんな形の感謝の表し方があるだろうか。
そしてまがりなりにも鍋を買いに行ったのだ、もう少し鍋の用途に近いものは無かったのだろうか。

結局、女の子の彼氏が猛反対して、お店で働くことは叶わなかったという。
女の子は居なくなり、ママの家には大きなサンタクロースのみが残された。

「その内に汚れて顔が真っ黒になっちゃったから捨てようとして」

白人のはずのサンタの顔が真っ黒に!
どれだけ劣化が進行する家なのだ。
確かに、マネキンの頭がぼろぼろになった実績がある。
この家だけ劣化スピードや時流がおかしくてもうなづける。

「マンションのゴミ捨て場の棚の所に置いといたんだけど、お手伝いさん(その当時雇っていた。お店も繁盛していたのだ。)が持って帰ってきたのよ。」
「捨てられないもの」の意味はそうだったのかと思う。
もうちょっと人情味のある話が聞けるのかと思っていた。

結局、人形を拭くクリーナーのようなもので真っ黒い顔は元に戻り、今も家に居るらしい。

ちなみに彼女はサンタの持っている袋を「宝の袋」と称していた。
サンタクロースのコンセプトを間違えている可能性大だ。