ゼリーへの疑いのお話

ママはピエスモンテのクッキーが大好物。
何かと言えばピエスモンテの話が出て来る。

「こんなちいちゃな箱で2000円もするのよ。これをね、夜寝る前に一枚食べるんです。牛乳と一緒に。それが一日の贅沢なの。」

こんなちいちゃいことを伝える為に、カウンターに指で長四角を描く。
カウンターはママがサイズ感や形状を口で説明しきれないときに活躍する。

驚くべきことにこの年になって親知らずを何本も抜いており、週1回歯医者に通っているのだが、歯が痛いときはこのクッキーと牛乳しか摂取できなくなるという。
83にして惜しげも無くスパスパ歯を抜いてゆく勇姿の話の席もぜひ設けたいところだ。
普段は1日1枚の贅沢なのに、このときばかりは一層贅沢をせざるを得ないようだ。

ママによると、ピエスモンテのケーキは日本一高いらしい。私は少し疑っている。

そしてゼリーが苦手。

「ゼリーってのはどうしても歯にくっつくでしょ。ぺちゃぺちゃしちゃってだめよ。この通り沿いにゼリーのお店があってひとつ頂きましたけどね、色がきれいなだけね。」

歯にくっつくゼリーなど聞いたことが無い。
何度かに渡るゼリーへの嫌悪感の話を繋げたところ
1.べたべたしている
2.柔らかいようで固く、噛み切れない
3.色とりどりで小さい
という特徴がヒアリングできた。
恐らくグミだ。

後日、例の歯医者の後クッキーと牛乳しか食べられなくなった彼女にうっかり「じゃあゼリーなんかいいんじゃないですか?つるっとしてて」と言ってしまったがあとの祭り。

「ゼリーはね、あれはいけませんよ。歯にくっついちゃって。普段でもくっつくっていうのにこんなときはとても食べれたもんじゃありませんよ。」

何をとんちんかんなことを言ってるんだ、こいつはという口ぶりでまくしたてられ
私は一切の反論を諦めた。

あのつるりと喉越しの良いゼリーのことは何と称せば伝わるのだろう。